刑法総論① 因果関係
今回は、刑法総論分野「因果関係」について解説していきます。
しっかりと学んでいきましょう!
因果関係を学ぶ大切なポイント
①事実的因果関係と法的因果関係を検討すること。
②相当因果関係説について理解すること。
③相当因果関係説の危機について学ぶこと。
④危険の現実化説について理解すること。
今回はこの4つを中心に解説していきますよ!
事実的因果関係と法的因果関係を考えよう
刑法における「因果関係」とはまず「事実的因果関係」を検討し、事実的因果関係をクリアした場合に「法的因果関係」を検討します。両方クリアしてはじめて,因果関係ありといえるわけです。
事実的因果関係とは条件関係
では、「事実的因果関係」とは一体何なのでしょうか。
実は、事実的因果関係という文言は覚える必要がありません。事実的因果関係とは一般的な因果関係のテストのことだと考えていただければ大丈夫です。
つまり刑法独自の因果関係テストではなく、一般的に「因果関係ありますか?」という問いに対する考え方なのです。
その例として、「アイスを食べたから、お腹が痛くなった」という問題を考えてみましょう。
「アイスを食べたこと」と「おなかが痛いこと」との因果関係はありますか。と誰かから尋ねられたとしたら、皆さんはどう考えるでしょうか。
ここで事実の因果関係を判断する方法として有名な条件関係を使うわけです。条件関係とは「AなければBなし」(あれなければこれなし)といえればAとBは因果関係があるといえる、というものです。
先ほどの例で考えてみますと「アイスを食べなければお腹は痛くならなかったか」か否かを検討します。これが言えれば、「アイスを食べたこと」と「おなかが痛いこと」の因果関係がいえるわけです。
これで日常生活では、因果関係があるといえるわけです。
しかし、刑法というものはさらにこれに次のハードルを課しているのです。
法的因果関係とは
ここまでご説明をした条件関係だと、因果関係が認められる範囲がとても広くなります。
たとえば友人に飛行機のチケットをわたしたら、その飛行機が偶然にも墜落してしまい友人が亡くなった事例を考えてみましょう。
事実的因果関係の条件関係を考えると「友人に飛行機のチケットを渡さなかったら、友人は亡くならなかった」といえるので因果関係ありとなってしまいます。
ですが、これではあまりに不自然ですよね。
そこで刑法は、一般的に用いられている因果関係判定方法の事実的因果関係(条件関係)とは別に法的因果関係として別のテストをする必要があると考えました。
法的因果関係説について
上述の通り、因果関係の検討で条件関係が認められたら、次に法的因果関係の検討をします。
この法的因果関係の判断基準として、とても有名なのが相当因果関係説です。
相当因果関係説の中にも客観説や主観説等さまざまな学説がありますが、今回はわかりやすさを考え、折衷的相当因果関係説について説明します。
「折衷的」といっても、それはややこしいものではなく、折衷的相当因果関係説とは「一般人の経験上+行為者が特に認識していた事情から相当といえるかどうか」を判断するものです。
「一般人から」と「行為者自身から」相当かどうかを判断するという点がポイントです。
例として、喧嘩をしていて殴ってしまったら、殴られた相手が傷害を負ってしまった場合を考えてみましょう。
一般人の経験上、誰かを殴ったら傷を負うというのは相当といえますから、相当因果関係が認められます。
ここでのポイントは「相当」かどうかの判断は行為時に行われているということです。行為後に「この結果が起こるのは相当だ」といっても意味はなく、行為時に結果が相当といえるかを判断していく点がポイントです。
法的因果関係は,行為時に,一般人から+行為者自身から相当かどうかを考える(相当因果関係説)。
相当因果関係説の危機
これで事実的因果関係も法的因果関係も検討し、いずれも認められた場合は因果関係が認められたということになりそうですね。
しかしながら、ここである事件が起こりました。
今までの法的因果関係説では考えにくい事件が起こったのです。これが有名な大阪南港事件です。
大阪南港事件
甲はVを暴行。Vに脳出血を発生させ、資材置き場まで運搬し放置した。Vの生存中、何者か(乙とします)によって角材で殴られたことにより、幾分か死期が早められた。
Vの死と甲の暴行との因果関係が問題となったが、判旨では因果関係が肯定された。
まずは、この事件をこれまでの考え方で解いてみましょう。
①まず事実的因果関係があるかどうかを検討します。
甲が暴行を加えなければVは死ななかったわけですから,事実的因果関係は認められるといえます。
②次に法的因果関係があるかどうかを検討します。
折衷的相当因果関係説によれば、甲の暴行からVの死が発生したことが、一般人+甲から、行為時の判断として相当といえるかどうかを考えます。
ここでVの死を考えると、Vは乙により角材で殴られたことにより死期が早まっていますね。
この死期が少しはやまった結果発生は一般人の経験上+甲の認識上相当といえるでしょうか?
いえませんよね。甲の暴行時から相当性を欠く結果が発生したといえます。
これが 所謂相当因果関係説の危機です。
【転機】危険の現実化説が登場
さて、ここでこの判例を説明できる理論が登場します。危険の現実化説です。
相当因果関係説の弱点は、行為後に介在事情があった場合には相当性は否定されるのでうまく因果関係を説明できないことにありました。
いわば行為後介在事情型のケースは相当因果関係説の弱点だったわけです。これは相当因果関係説が行為時を基準にすることからもわかると思います。
危険の現実仮説は①危険が②現実化したかで寄与度を検討しよう。
危険の現実化説は比較的に簡単に理解ができます。
文字通り①行為に危険があるかどうか、②それが結果に現実化したかどうかを考えます。
先ほどの説と比べればわかりやすいのではないでしょうか。
では介在事情がある場合はどうなるかというと、それぞれの行為の寄与度で判断して危険が現実化したといえるかを考えるわけです。
たとえば、先ほどご紹介をした大阪南港事件で、甲の暴行の結果への寄与度が60、乙の暴行の寄与度が40としましょう。
この場合、甲について暴行の①危険が②Vの死の結果に現実化したといえることから、甲の暴行とVの本来より数分前の死は因果関係が認められるわけです。
事後的に結果と行為を考えるので抽象化といった問題は生じないわけです。
ここで介在事情の40という値はどう判断すればよいのか疑問に思うかもしれません。
このような場合に考慮要素としてよくいわれるのが①危険度②介在事情の異常性です。
すなわち、(あ)もともとの行為の危険性、(い)介在行為の危険性、(う)介在事情の異常度の3点を主に考慮していくことになります。
危険の現実化説では,行為の危険性が結果に現実化したかを事後的に判断していく。介在事情のある場合は,行為の危険性,介在行為の危険性,介在事情の異常性を判断してそれぞれ寄与度の割合を考えてどの行為に結果を帰属させるかを考える。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回は刑法の「因果関係」についてまとめました。
①刑法の因果関係は事実的因果関係と法的因果関係を考える。事実的因果関係は条件関係をもとに「AなければBなし」を考える。事実的因果関係が認められば法的因果関係を検討する。
②法的因果関係についてかつては相当因果関係説が主流だった。折衷相当因果関係説は行為時に一般人から,行為者から,相当といえるかどうかを考える。
③大阪南港事件により,相当因果関係説では説明しにくい事態が生じた。そこで危険の現実化説が一般的に用いられている。
④危険の現実化説は行為の危険が結果に現実化したかを考える。その際,介在事情があればそれぞれの行為の寄与度を危険性や異常性により判断してどの行為に結果を帰属されるかを検討する。